団地に潜むフランケンこと債務者B
僕は延滞初期のお客さんの督促を行いながらも、訪問の経験を積む上で未だ入金にならないBさんの取り立てを継続するよう店長から指示をうけた。
週一回、内勤での電話督促を少し早めに終わらせ、その足でBさんが住んでいる団地を夜訪問することになった。
Bさん宅へ週一回の訪問を始めてから3度目の夜、電気メーターがグルグル回るどう考えたって居留守としか思えない団地特有の鉄板扉の前で僕は苛立っていた。
・・家の中に無理にでも入らない限り本人と話すことすらできないじゃないか・・
いくら毎週通って訪問通知を入れたところで全く意味のないと感じた僕は、持っていた訪問通知を全て差し込める隙間に差し込んで、扉をガンガン蹴っ飛ばしその場を離れた。 その時、
「誰じゃ、こら!!」
勢いよく扉が開き、金坂さん級の巨体の男が現れた。
「Bさんですか?」
「だったら何なんだよ!それが人の家に出向くやり方か!!」
・・まさかこんなイカツイ野郎が居留守をしていたなんて。僕の想像と全然違う・・
と一瞬たじろぐとの同時に足繫く何度も通い、時間と労力をつかった思いがこみ上げ、
「あんたがいつも出てこないからじゃないですか!!」
とまるでフランケンシュタインそっくりなBさんに怒りの一声をぶちまけた。
「支払いは少しずつしてんだろ!まだ金が入らねぇんだよ」
今にも殴りかかってきそうだったBさんは、支払いが遅れている自分自身に引け目を感じたのか、少しトーンダウンした。
この時はわからなかったのだが、Bさんは腎臓が悪く、人工透析をしていて毎月の収入は生活保護費だった。
Bさんは僕の顔をふてくされた目で少し睨んだ後、無言のまま家の奥に入って行き、茶封筒を持って戻ってきた。
「ほらよっ」
そして茶封筒から取り出した千円札2枚を手渡してきた。
この時は知識不足でBさんが利息も免除されて、毎月の2000円の支払額でまかり通ることについては病気で働くことが出来ないBさんが可哀そうだから店長の温情でそうしているんだと僕は勝手に解釈していた。
けれども、金貸し屋はそんなに緩い世界ではなかった。この支払額もBさんが裁判所へ調停を申し立てして勝ち取った権利であることを後に学習することになる。
2023/07/10