不良債権の横綱Tさん 続き

僕は持っていたコンビニの袋の中からさっき買った求人誌を取り出し、Tさんへ渡した。

僕「Tさん、仕事探したらどうですか? たくさん載ってますよ」

Tさん「え..はあ、まあ」

僕「とにかく、これそこのコンビニで買ってきたんで、ここに置いておきますね」

その古びれた、調味料が雑然と並べられている男の食卓といった表現がマッチするダイニングテーブルに求人誌を置いた。と同時くらいに金坂さんが、同じくコンビニのレジ袋をじゃりじゃりあさり、さっき買ったロールパン8個入りの袋を手に取りTさんに話しかける。

「Tさん、パン買ってきましたよ~」

TさんとTさんの父親は、金坂さんのパンという言葉にすかさず反応し、パンが置かれた位置を確認した。僕の買ってきた求人誌なんてどうでも良いみたいだ。

根本にある価値観と呼ぶべきものが違うのか、働く意思が完全に失われてしまっているのか、本来人間はそういうものなのか。買ってきたパンにしか興味を示さない。いくら複雑に表現しようとしても意味もない、結局はダメ人間なのか。

金坂さんがタンスの上に置いてあった昔のTさんが写った写真を発見した。

Tさん「ちょっとぉ~なんですか~」

Tさんは金坂さんが手に取った写真をまんざらでもないような顔で見ながら少し抵抗の素振りをする。

金坂さん「鈴木さん、これ、ちょっと見てくださいよ」

その写真はTさんのちょっと若かりし頃の写真で、勤め先であろう背景に写る工場のような建物の前で空手の構えなのか、ファイティングポーズを自信満々の笑みでたたずむものだった。

その写真はまるで大人のび太くんのような情けない姿になっている現在のTさんからは想像がつかないほどの、勇ましく、生き生きとしたものだった。こzyoの時点でサラ金からすでに借金をしていたのだろうか。

「Tさん、こういう時代あったんじゃないですか?こっちのほうがカッコイイですよー また戻ってくださいよ。この写真の時みたいに」

困ったような、泣きそうな表情を続けるTさんに僕は話しかけた。

Tさんの反応は無い…

僕の声だけがその狭い茶の間に立つむさくるしい男4人を避けるように反響する。

そもそもTさんがこうなってしまったターニングポイントはなんなのか、それは誰もがなり得る可能性を持っているものなのか。

若干27歳、これから自分にも起こり得るさまざまな出来事、それは主によくない出来事を全く考えもしない僕がいた。若いってそういうもんなんだろう。未来に対して楽観的な希望にまだ満ち溢れていた。サラ金に勤め、その時々の落伍者(お金の無い人)と日々出会うことが余計そう感じさせたのかもしれない。 自分だけはこうならないと。

 

パンと一緒に置いていったうまい棒も90歳のTさんのお父さんは食べたのだろうか…

そんなことを考えながら、僕は金坂さんが1,000円しか回収出来ないTさんのテイタラクさぶりを面白ろおかしく話すのをBGMのように聞き流しながら、中途半端な街の灯りがともる千葉の国道を運転していた。

      2023/07/10

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