不良債権の横綱Tさん 第二章

月中のお昼頃、回収室では穏やかな会話が繰り広げられていた。

大貫さん「たけちゃんの五目焼きそば食べたいなぁ、カネゴン、銀行に行くならついでに買ってきてくれよぉ」

金坂さん「いいですねー、わかりました」 「鈴木さんも五目焼きそば食べます?」

僕「はい、食べたいです、あそこの五目焼きそば美味しいですよねー」

入社2年先輩にも関わらず、年齢が上というだけで金坂さんは色々と僕に気を遣ってくれた。

年齢といえば、須崎店長と僕は同い年だった。高卒の叩き上げで店長まで登りつめた取り立てマシーンと、社会をまだ何も知らない自分…

地位や収入の格差は今まで経験したことのない時間軸が繰り出す敗北感を発生させた。

高校時代ヤンチャして警察にも何度かお世話になった挽回と、浪人して勉強をやり直し大学に入学した成功体験などは、実社会に出れば屁のツッパリにもならなかった。経験と実績、ローマは一日にしてならず…

 

「鈴木くん、そろそろT君ちに遊びに行こうか」

債権証書を手に持ちニコニコしながら笑顔で近づいてくる須崎店長。

「は、はい」

まだまだ新米の僕はその受け答えしか言えなかった。。

 

その日の業務終了後、僕はTさんの債権証書一つだけをカバンに入れ、須崎店長の愛車カローラワゴンに乗り込んだ。時刻は21時半をまわっていた。(貸金業規制法→21:00~翌8:00間の取り立て行為禁止)

22時過ぎ、Tさんのアパートに到着。アパート一階のTさんが住む部屋の窓からは道路に向かって直線的に光が伸びていた。

今日の取り立てはいつもと違った。Tさんに顔の割れていない須崎店長ならではのアイディアで、即効性がありストーリー性のある取り立てを計画した。

計画はこうだ…

①僕がまずTさんの家を訪問し、延滞しているお金を払わないと、悪徳債権買取業者に債権が移ってしまうことを伝え、請求をかける。

②これでも支払いを渋るようであれば、待機していた須崎店長が悪徳債権買取業者として、怒り狂って登場する。

③驚いたTさんが延滞金を支払う。

..計画通りには そう、 いきませんでした...

 

 

      2024/03/15

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