怒涛の集金ラッシュ file3

M川さんの家を後にした僕らは、一か月以上も支払いが滞っている長期延滞者のG田さん宅に向かった。

G田さんの家はとても険しい道を登って行かなければならない山奥だった。まあ、険しいと言っても車なので大したことはないのだが、夜になると山の道は真っ暗で、うねうねしたそのその曲がる先を人がいないか確認しながらの運転は非常に疲れる。入社前、サラ金で必要なのはお金を取り立てることは想像していたが、実際に支払い延滞者、不能者の家を次から次へと訪問する車の運転がこんなにも疲れるとは思ってもいなかった。

僕「あれ、おかしいですね、G田さんの家の住所に行こうとするとナビ道がありませんよ」

金坂さん「G田さんの家は途中から歩きなんですよ、獣道を(笑)」

 

僕「これ、懐中電灯ないとまともに歩けない道ですよね~ 携帯電話の灯りだけだと厳しいっす」

今は真冬の2月、18時を過ぎるとその林に囲まれた土のけもの道は真っ暗だった。

金坂さん「ほら、あの電気がついているとこがG田さんの家ですよ」

車を停めて5分程登って行ったところに、不自然な流れで電線を引き込むプレハブ小屋が現れた。

電話や携帯で連絡の取れないお客さんは、実際訪問して取り立てに行っても留守宅がほとんどだ。人が居なければ、家の中に入って泥棒でもしない限りお金を回収することは難しい。

でも、自宅に人が居れば、それは本人じゃなくても家族でも良い、借金取りに家に来られるのはイヤだからお金を払う。お金を払えば帰ってくれるならめんどくさいからお金を払う。

だから、サラ金屋に慣れてくると家の灯りがお金に見えてくる。もちろん取り立てする僕らは月給制なので債務者から回収するお金がそのまま自分の懐に入るわけではないのだが、取り立て成功の確率が高くなることの期待が昂揚感を味わせる。たとえるならば、魚釣りをしていてウキが沈むあの瞬間、パチンコのリーチがきた時のワクワク感に似ている。とはいってもそれが自己還元へとつながるかどうかは曖昧な為、小さなワクワク感であるにすぎないが。

そんなことよりG田さんの取り立てだ。 森林に囲まれたプレハブ小屋のガラ戸を引き開けると目の前はすぐに台所になっていて、G田さんは専業主婦らしくせかせかと走り回っていた。

僕らが戸を開けたことに気づいたのは、ごめんください と数回かけた声ではなく、走り回る際に知らない顔の男2人が視界に入ったからであるようだった。

信用ローンですけど

金坂さんはG田さんが気づくと同時に言い放った。

お盆を持ちながら振り向いたG田さんはさすがに少しびっくりした顔を見せたが、普通の見知らぬ男2人が台所付近に突然立っている時に予想するリアクションより明らかに小さかった。 しょっちゅう借金取りに訪問されているのか、それともこのプレハブ小屋はマックのドライブスルーのように近隣住民が入ってくる場なのかはわからないが、持っていた夕飯を乗せたお盆をすぐ下ろし対応するわけでなく、家族のいる茶の間に運んだ後、堂々と再び現れるG田さんがそれを物語っていた。

G田さん「信用ローンさん、何の用ですか!?この前支払いはしたばかりでしょ!」

僕「いやいや、G田さんの支払いは毎月18,000円のはずですよ、この前振込されたのは3,000円じゃないですか。今日はちゃんと残りの金額を払ってもらう為に来たんです」

G田さん「突然来られてもないですよ。今食事中なのでまた改めてください」

ふと斜めに目をやると、襖の隙間から見える茶の間で旦那らしき男と子供が夕飯を食べながらTVを観て楽しそうに笑っている。

借金取りのイメージも変わったものだ。

金坂さん「いやいやいや、G田さん、それは勝手すぎるでしょ。そもそもあなたが約束を守っていればこんなド田舎まで食事中にお邪魔なんてしないですよ、今すぐ残りの金額都合つけてくださいよ」

G田さん「この前ちゃんと3,000円払ったでしょ!?今月はあれが精一杯の支払いなんです」

話は平行線だ。

声を荒げる僕らとG田さんとの会話はTVのゲラ音にけされているかのごとく、襖の隙間から見えるG田さんの旦那と子供達のの笑いも途絶えることがない、まるでG田さんと僕たちのこの半径1mの空間が異次元かのような。。

G田さん「ちょっと!アンタ!!信用ローンさん、支払い少ないって来てるんだよ!」

展開が変わり、子供とTVを観て笑っている旦那に助けを求めだした。助けというより、アンタも一緒に使ってる立場なんだからTVなんか観てないで一緒にこのサラ金屋達の対応しなさいよ!といった風だった。

G田さんの旦那「俺も金ねぇからなぁ~」

汚れたツナギの作業服を着て畳の上で寝転んでいたG田さんの旦那は、ボサボサの頭を掻きむしりながら、襖戸を全開にして妻であるG田さんの呼びかけに応じる。

巨人の星ばりのちゃぶ台に並ぶ夕飯は決して食欲をそそるものではなかったが、その光景はまさに昭和の家庭といった温かさが伝わってくる。

ふと自分自身我に返る..日々殺伐とした貸し借りの世界で働き、家に帰れば仕事を言い訳にした不機嫌な仏頂面で両親ともろくに会話もしない。お金を返さないところを除けば、このG田さんの家族のほうがよっぽど幸せで健全なのではないか。。

そんな思いを巡らせている矢先、G田さんの旦那がムクッと起き出し僕たちに近づいてきた。

ポケットに手を突っ込んだかと思いきや、クシャクシャのお札をひろげて、

「悪りぃけど給料前だからこれしかねぇんだよ、今日のところはこれで勘弁してくれねぇか」

と2,000円を差し出してきた。

G田さんの債権は旦那が連帯保証人になっているわけではない。が、こういうシチュエーションはよくあるパターンで、代払い申し出というカタチで戴いてしまうのが常であった。

 

金坂さん「とりあえず旦那がいて良かったですよね」

僕「そうですね、でも2,000円って、、ほんとにそれしか無かったんですかね~」

金坂さん「うーん、ほんとのところはわかんないですよ。でも2,000円しか無いっていうのは絶対ウソだと思いますけどね。ただG田から少額でも回収できて良かったですよ。取れなかったら須崎店長に何言われるかわかんないですよ、2人で訪問に回っているかぎり」

僕「G田さんから今日回収できなかったらどうなりますか?」

金坂さん「たぶん須崎店長のことだから1人で明日また取り立てに行かされます。一応G田の場合は居れば回収できるっていう頭がありますからね~店長には。簡単な債権というイメージです。だからもし今日取れなかったら行ったけど居なかったということにしようと思ってたんですよ。でもそれは最終手段で基本的には1円でも回収しますけどね」

こんな会話をしながら僕たちは真っ暗な獣道を携帯電話のボタンをカチカチしながら足元を照らしG田さんの家から離れた。

 

 

      2023/07/10

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