茨城の不良債権たち 序章

今日も朝から回収室では前田さんの怒号が響き渡っていた。

「朝からイライラさせんなよ! え?! なに? それだったらすぐに払ってくれよ! こっちもお宅になんか電話架けたくねぇんだよ!!」

それを横目でニヤニヤ笑いながら、弁護士事務所の担当事務員の悪口を言う法的債権担当の大貫さん。

僕は延滞初期の電話督促と並行して、金坂さんに付き遠方債権の訪問をすることになった。

遠方の債権とは、県外もしくは県内でも大体80km以上離れたところの連絡不能支払い滞納者が該当するというのがここ千葉支店暗黙の共通認識だった。

 

「テメー、腕の一本でもへし折るぞ! おいっ!わかってんのか! おいっ!」

須崎店長の電話督促は他に類をみないほど暴力的で、前田さんの督促がかわいくみえてしまうくらいだった。人間慣れというものはおそろしい。入社して3カ月、こんな恐ろしい暴言をすぐ近くで毎日聞かされていると、あぁ またやってるな くらいの感覚で静かな時が物足りないと思ってしまうほど麻痺してくる。

「あぁ.こいつだめだ。連絡つかなくなったよ。親族に電話で嫌がらせしても全く効き目ないから、あんた達明日茨城行ってきてよ」

何故か須崎店長は暴言オンパレードの取り立て時とは違い部下に指示をするときは、 あんた~ ~しなさいよ 等々、女将さん口調だった。

 

翌日朝、常磐道のサービスエリアで僕と金坂さんは、僕の愛車である安ドイツ車の車内があまりにもカビ臭いためバルサンを焚き、殺菌消毒が終わるのをホットドックを食べながら待っていた。

「今日の債務者はまだ会ったこのとない奴らばっかりですね」

金坂さんが茨城訪問用に持ってきた5件の債権帳簿を見ながら呟いた。

僕「金坂さんでも会ったことないって、初めて支払いが遅れだした人ばっかりなんですか?」

金坂さん「いや、鈴木さんはまだ入社してあまり経ってないから知らないでしょうけど、遠方の債権は今まで電話や手紙での督促しか基本的にしてこなかったんですよ、それでもダメなものについては法対応の大貫さんに任せて」

僕「そうだったんですか。じゃあきっと自宅まで取り立てに来たら本人達びっくりしますね?」

金坂さん「そうですね、本人達はかな~り予想外だと思いますよ」

      2023/07/05

 - 中長期回収