初期回収(訪問編)
初めてお客さんのところに訪問(いわゆる取り立て)に行った。しかもデビューは付き添いもなく1人で行かされた。
金坂さんから事前に手順を教えてもらった。
手順は以下の通り単純だ。
1.電話が無く連絡の取れない支払延滞者をピックアップする
2.住宅地図を持って車に乗る
3.ピックアップした支払延滞者の家に行きお金を取り立てる
しかし、外に出ると色々なことが待ち受けている。まずお客の家にたどり着くことができない(ーー;)
地図を見て目的地に行くなんて、小学校の時にしたオリエンテーリング以来だ。
※後に僕は仕事の効率性を考え当時30万円とまだ高価だったナビゲーションを自分の車にとりつけることとなる
初めてということもあり、僕は一日で5件を訪問するよう店長から指示を受けていた。
一件目
郵便受けに大量のビラや手紙が溢れているお宅に到着。一目で人がいないとわかる。が、一応チャイムを鳴らすがチャイムが鳴らない。ドアをノックしお客さんの名前を呼ぶが反応なし。督促状(訪問通知)をポストに入れ去る。・・あっ待てよ、金坂さんから教わったんだった・・ 郵便受けに入っている大量の郵便物を取り除き、自分の会社の督促状だけを入れ直す。
二件目
表札なし。だが郵便受けに溢れている他社の督促状の宛名で本人宅ということを確認。チャイムがないので、ドアをノックしたところ、薄いベニヤ板でできているため、ノック3回目で、ミシッ、ミシッ と割れそうな音が。電気メーターを確認、かすかに動いているかいない程度。。一件目同様、督促状(訪問通知)を郵便受けに入れ立ち去ろうとした時、会社からの着信SS
「今どこですか?」
金坂さんからの電話だった。
僕「今二件目のAさんのお宅です。いない様なんでこれから三件目に行くところです」
金坂さん「住んでそうでなければ、近隣にサラ金だと何気なくわかるように本人のこと聞き込みしちゃってください」
・・えっ!分かりやすくいうならば、近所の人にAさんが借金取りに追われてる風に聞き込みするってことだよね・・汗
ピンポーン! 隣の家のチャイムを鳴らす。
「はい、どちら様?」
すぐにドアが開き初老の女性が出てきた。
僕「あのーお隣のAさんに用事があって伺った、
初老の女性「あーお宅金融屋さんでしょ?Aさんはね、もう一か月前から住んでないよ。どこに行ったかはわからないけど」
・・・サラ金からお金を借り、踏み倒そうとするヤツは全く関係のない近隣の人にまでこういった迷惑をかける(まあ、聞き込みなんてするサラ金もサラ金だが)・・・
勘違いした正義感が芽生えていく僕だった。
三件目
Nさん宅のチャイムを鳴らす。
初の本人対面!
「信用ローンの鈴木と申しますが、今月の支払いの件で参りました」
Nさん「今月お金なくて、もう少し待ってくれない?」
Nさんは女性で45歳の主婦、綺麗な一般的な一戸建ての家に住んでいてとても毎月の支払13,000円が払えないようには見えない。
「待てないから来てるんじゃないですか。電話も繋がらないし、連絡もくれませんでしたよね」
ここまでは金坂さんに教えてもらったトークを展開する。
Nさん「そんなこと言われても無いものはないんですよ」
この返答にも事前に金坂さんからレクチャーを受けたトークで応酬する。
「じゃあ今日は一部入金として10,000円で良いですよ、残り3,000円は明日迄に都合つけて払ってください」
Nさん「10,000円なんて今すぐ無理ですよ。今週中になんとか13,000円用意して振込ますから待ってください」
・・・予想外というか金坂さんからはまだ教わっていない展開だ・・このお客を信じて待つべきか・・
とりあえず店に電話をする。
「どうした?」
電話に出たのは、神経質そうな外見もせっかちな性格も金貸しそのものの須崎店長だった。
「あの今Nさんのお宅なんですが、今週いっぱい支払いを待ってくれとのことなんですが…」
僕の説明を一通り聞いた後、須崎店長は一言
「ほんとに金ないか財布持ってきて見せてもらいなさい」
「財布持ってきてもらえますか?」
僕は店長と繋がったままの携帯を持ちながら、Nさんに言った。
Nさんは部屋の奥に入り財布を持ってきた。
「これしかないですよ、見てください」
お札は奥の部屋で抜いてきたのだろうか、財布の中にはジャリ銭しか入ってなかった。僕は店長にそのまま報告、
「店長、小銭しか入ってません」
須崎店長は一言
「全部回収してきなさい」
僕は財布からかき集めてもらった支払額の10分の1にも満たないジャリ銭を1円単位で根こそぎ回収した。
「残りは今週中に振込してくださいね」
そして僕は何を思っているか読み取れないNさんに背を向け四件目のお宅に向かう為その場を立ち去った。
四件目のお客さんが住んでいる団地に到着。初めての訪問回収で支払いが滞っている人の4つの家を見てきたが、3件目のNさんの家を除いては普通に生活していては遭遇しない住居だった。 端的に言えば、ボロいというか、ボロいというか...
その時は気づかなかったのだが、普段生活している場所の比較的近隣に貧民区というものは確実に存在するんだ。
表札なし、呼び鈴を鳴らす。
再び呼び鈴を鳴らし、名前を呼ぶ。。
またまた呼び鈴を鳴らし名前を大声で呼ぶ。。。
電気メーターは勢いよく回っているのでおそらく居留守に違いない。 仕方なく訪問通知をドアポスに入れ立ち去る。
最後の五件目は超ド田舎で旅館を営む女将。女将といっても債権帳簿とともにファイリングされている免許証のコピーをみると、瞬時にシラけてしまう58歳のとてもふくよかなオバちゃんだ。
「Yさーん!いらっしゃいますかー?」
とてもじゃないけど旅館とは程遠い安アパートのようなトタン屋根の建物に到着すると僕はすぐさま引き戸を開けYさんの名前を呼んだ。室内からは人の出入りの少なさを表すかのようにカビ臭い匂いが漂っている。
「はい、何の御用ですか?」
廊下の奥からYさんが出てきた。 っと思いきや、
僕「Yさんですか?」
「いえ違います、Yの妹です」
・・うーむぅ、そうきたか..免許証の白黒コピーは粗い画像ではっきりと判別できない・・
「今日はいないなら明日は何時頃ならいますか?」
本人っぽい妹 「さあ、わかりません、姉はしょっちゅう出歩いているので」
「じゃあまた近いうちに来ます」
これ以上は面倒なので、またいつ出向くかわからないプレッシャーをこの妹と名乗る人物にかけその場を後にした。
※その訪問から2日後、遅れていたYさんからの入金振込が確認できた
数日後、四件目に行ったBさんを除いては全て入金の確認ができた。やはり、電話の督促だけでなく、実際にお客さんのお宅に訪問することは効果大と実体験とし感じることができた。しかし、四件目のBさんだけは2週間が経過しても入金を確認することができず、連絡すら入らなかった。
2023/07/10