初期回収(電話編)
そもそもウチの会社に借りにくるお客様はブラックリスト一歩手前だ。他のサラ金6~8社借りた後にくる破産寸前のお客様ばかりだ。名の知れていない三流企業なのでしょうがないのだが。
僕の対応にシビレを切らしたのか、金坂さんがアドバイスをしてきた。
「そのNさんは電話ないからポケベルに シハライセヨ っていうメッセージを30回送れば、連絡取れますよ」
言われたとおりに僕はポケベルを鳴らした。
・・数分後・・
着信SS プルルルル、 プルルルル
「はい、株式会社信用ローンの鈴木です」
「誰じゃコラ!ポケベルにこんな何回もメッセージ送ってきやがって!街金の取り立てでもこんなことしねぇぞ!!」
Nさんからの電話だった。
「支払いはするよ!もう少し待っとけよ!」
ガチャ、プー プー
隣で聞いていた金坂さんは一言
「ほら、架かってきましたね」
っていうかポケベル30回って嫌がらせレベルじゃないか(ーー;)
しかし、督促慣れしているNさんと話す為にはこの方法がベストだと金坂さんは言う。自宅へ訪問する手段もあるが、1人のお客さんの回収目的でガソリン代と時間を使うのはあまりにも非効率すぎる。
隣で金坂さんが、電報を打ちだした。
「えー、株式会社信用ローンの金坂です。電報を15通お願いします」
・・・15通!?・・・
「文言が、シハライセヨでお願いします」
・・またシハライセヨかよ~・・やばいでしょ~・・
「株式会社〇〇内のA.M様宛でお願いします」
・・・えっ!? 何?? 勤め先に電報かよ!?・・
午前中に金坂さんが依頼した電報は夕方までには依頼先に届く。僕はひとしれずドキドキしながら回収室に響く入電を待っていた。何故なら、いくら支払いが遅れているとはいえ、勤め先にシハライセヨなんていう電報が届いたら本人達はどんなに怒り狂うだろうと思ったから。
プルルルルル
午後4時頃くらいからだろうか。電報を見たお客さんからの電話が鳴りだした。
「会社に電報が届いたんですけど」
あー、自分が代わります!
僕がお客さんの名前を連呼するに反応して、金坂さんがすかさず反応した。
「Sさんが支払い遅れているからこういうことになるんでしょ、で、今日支払いできるんですか?!」
「当店のATMがあるでしょう!21時まで機械動いてますから入金してくださいよ!」
「じゃあ、来てくださいよ。お店でもいいですよ、私21時までいるんで。また入金できなかったら、会社に行きますよ!」ガチャッ!
プルルルルル
またも電報を見たお客さんから入電。
「はい、金坂ですよ、支払い遅れているのに連絡もよこさないからしょうがないでしょ! で、Jさんいくら入金できるの?前月も半分しか払ってないんだから今回はそれを合わせて払ってくださいね!!
プルルルルル
金坂さんが発信した電報の返信が鳴りまくる。
「はい、金坂です。Hさん、2か月に1度の年金がまだ入らないからなんて理由はもう通用しないですよ。今すぐ持ってきてくださいよ」
金坂さんが受け持つのは支払いが遅れて一週間以上経過した債権だった。だからある意味債権内容をを把握しているから無茶な督促ができる。しかしそれは裏を返すと、お客さんの人柄まで知りつくした上での可能な技だ。実際に金坂さんは、荒っぽいテキヤや教養のありそうなビジネスマンなどへの督促は対応を変え相手を怒らせるような手段はとらなかった。
要するに人を知った上でその人に合わせた請求行為をしている。一週間以上支払いが遅れてしまうお客さんはそれなりのさまざまな事情があり、うっかり忘れが多い僕が担当している初期延滞顧客とは違う。
2023/07/10