茨城の不良債権たち file4

茨城訪問3件目 Aさん

ジュンことOさんの家は改めて夜訪問することにして、今回の訪問の中でも一番のメインと言ってもいいAさんの家に行くことにした。メインの理由は限度額一杯の50万貸し債権だからだ。

金坂さん「Aは毎月の支払額22,000円なのに2,000円しか払ってないですからね~また今月も支払いが遅れれば遅れるほど利息が増えていくという、もう利息が貸付残高を超える日も近いんじゃないんですか」

僕「本人は利息がいくらあってとかわかってるんですかね?」

金坂さん「たくさんあることはわかってると思いますよ、返す気なんて初めからないんですよ」

Aさんの家はごく中流の住宅街にあった。大抵サラ金の支払いが滞っている人が住んでいる家というのは、ボロボロでいかにも貧しそうな建物だという僕のイメージを裏切ることのほうが少ない。しかし、今回の茨城訪問は、Oさんの家もしかり、このAさんの家もとても立派な建物だ。とても毎月の支払いが払えないような暮らしをしていそうにない。

ゴンゴンッ

ドアの中心にあるノック用のライオンのフックを掴んで叩く

ゴン、ゴンッ、すみませ~ん Aさ~ん、ゴン、ゴンッ

またもや留守のようだ。

と思いきや、ジャージ姿の中学生くらいの女の子がドアを開けた。

金坂さん「お父さんいるかな?」

すかさず金坂さんはその女の子に訪ねる。

娘「いないです」

金坂さん「今お父さんはどこに行ってるのかな?」

娘「わからないです」

スーツを着た大の男が2人突然訪問してきてAの娘は少し脅えているようすだ。

金坂さんは否応なしに話を続ける。

「お父さんと連絡とれなくて僕たちすごく困ってるんだよね~、お父さんの携帯知ってるんでしょ?今電話してみてよ」

Aの娘は何も言わずに奥の部屋に入り、ガサゴソした後、自宅電話の子機を持って戻ってきた。

娘「お父さんが替わって欲しいって言ってます」

そう言って金坂さんにその子機を差し出した。

金坂さん「あぁAさん!携帯電話持ってるんじゃないですか!」

替わると同時に金坂さんは勢いよく話しだした。

金坂さん「だ か ら ! いいかげんにしてくださいよ。毎月2,000円の支払いなんてされても困るんですよ!せっかく千葉から車で何時間もかけてあなたの為に茨城まで来てるんですから、今すぐお金持って来てくださいよ! えっ?なんですか? もちろん待ってますよ」

娘の手前なこともあるのだろうか。どうやら自宅に戻ってくるらしい。

・・ヤッター(*^▽^*) 茨城訪問初の取り立て成功かな・・

10分ほど経っただろうか、Aさんらしき人が乗った旧型のクラウンが自宅の前に慌ただしく停まった。

「突然家に来られても困るよなあ」

Aさんは車から降りると同時に声を発した。

Aさんは渋めな、服装にも気をつかっているような、現代風に言えばちょい悪オヤジだった。

「Aさん早速お金払ってくださいよ」

車から降りたAさんに一息つく暇も与えず金坂さんが言った。

一旦家の中に引っ込んだ娘も父親が帰って来たことに気づいて心配そうに玄関にまた顔を出したが、僕がそっちに目をやるとまた隠れてしまった。

「2千円なら払えるよ」

本来支払わなくてはならない金額の十分の一にも満たない金額を悪そびれなく言うAさんに金坂さんはまるで全てシナリオどおりかのように矢継ぎ早に攻めの姿勢を崩さず、

「あんたは初めから返す気ないだろ!本当は2,000円以上のお金払えるんだろ!、車だって乗ってるし、家だって立派な家じゃないですか!とても毎月2,000円しか返済できない暮らしぶりにはみえないですけどね」

Aさん「いや~ 自営で仕事をしているんだけど、取引先からお金が全く入らんわけよ。2ケ月前にやった仕事の報酬がまだ入らんみたいな」

金坂さん「だから、それはそっちの都合でしょうが!こっちはAさんの支払いが滞っているおかげで千葉からわざわざ時間とお金使って来てるんですよ、2,000円なんて交通費の足しにもならないですよ!」

このような双方の 払え、 払えない の応酬が10分くらい続き、Aさんはようやく折れる。

「わかったよ、これから知り合いに借りてくるからここでしばらく待っててくれよ」

金坂さん「信用できないですね。本当ですか?」

Aさん「それなら一緒にいくか?車でついて来ていいよ」

金坂さん「途中で逃げられちゃ困るんでAさんの車で一緒に行きましょうよ」

ってなことで、金坂さんと僕はAさんのおんぼろクラウンの後部座席に乗り込み出発となった。

車内での会話もなく、10分も経たないうちに、個人経営っぽい何を作っているのかわからない錆びれた工場のようなところに到着した。

「ちょっと待っててくれ、頼んでくるから」

Aさんは僕たちに同意を求めるわけでも無い言葉を投げ捨てながらエンジンキーを入れたまま軽快に車を降りた。

僕「しょっちゅう借りてるんですかね?」

金坂さん「さあ、どうなんだか」

 

数分も経たないうちにAさんは茶封筒を持って僕たちが乗っている後部座席の窓に近づいてきた。

僕と金坂さんはドアを開け外に出た。

僕「借りれたんですか?」

Aさん「とりあえず1万だけ」

金坂さん「残りどうするんですか?」

Aさん「残りの金額は今すぐは勘弁してくれよぉ、俺だって知り合いに頼みこんでのこの1万なんだからさぁ~」

金坂さん「だめですよ、Aさんの毎月の支払額は22,000円って決まってるんですから。しかもあなた今迄まともに支払いしてきてないじゃないですか!そんなことするなら50万プラス利息の全額をすぐに返してくださいよ!」

金坂さんはいつものようにすぐに折れない態度を継続し、Aさんにプレッシャーを与え続けた。冷酷かもしれないが、取り立ての基本は相手の都合に妥協せず、主導権を相手に取らせないことだ。数多くいるお客さんが毎月の支払いを半分にしてくれなんてことを許していたらどうなるだろう。金融屋として成り立つはずがない。

Aさん「明日残りは振り込むからよ、もう今日は無理なもんは無理だ、な!」

金坂さん「明日払える根拠はなんですか?今日も明日も同じじゃないんですか?」

Aさん「明日別な知人にまた頼みに行くからよ、今日はそいつ連絡とれねぇんだよ!」

金坂さん「じゃあ、明日の入金確認とれなかったら連帯保証人つけてくれませんか?今お金貸してくれた工場の知人にでもお願いしてみてくださいよ」

Aさん「だから明日払うって言ってるだろ!しつけー男だな、お前も!」

金坂さん「勘違いしないでくださいよ。もうAさんの債権は契約不履行で期限の利益を喪失してるんです、本来なら全額50万請求するのが普通なんですよ。明日15時前に振込したら必ず電話くださいね。電話が無かったら明日また家まで伺います」

-- かなりしつこく念を押したが、翌日Aさんからの入金と入電は無かった。せっかく手に入れた携帯電話番号も即着信拒否。また、以前のような毎月2,000円の入金すらもなくなり、訪問から1か月後弁護士よりAさんの破産申し立て受任通知が届いた(弁護士が介入した場合事実上本人への請求行為は、ジ・エンド) --

      2023/07/10

 - 中長期回収 , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,