茨城の不良債権たち file3

茨城訪問2件目

Oさん宅に向かう。

車中で金坂さんがため息混じりに言う。「これから行くOさんなんですけど、借りてから一回も返済してないんですよね、まあ10万貸しだったからまだ救われましたが」

僕「えっ!初回の返済からですか!?」

金坂さん「たまにいますよ。そういうのは初めから返す気なんてさらさらないとんでもない奴なんで詐欺と同じですよ」

僕のいた会社の貸付額は1~50万円だった。サラ金は担保貸しではなく信用貸しだ。このOさんに10万円しか貸せなかったのもある意味適正な審査だったとも言える。事実、結果としてこうやって支払いが滞っているのだから。

信用貸しを極めるサラ金の情報収集スキルは感心するほど高い。貸付の話はまた後ほど出てくる..

林の脇のくねった道を何度も通りやっとOさん宅に到着。庭は広く、家は大きかった。古くからの地主の家という印象をうけた。家の前にはしるあぜ道に車を停め、金坂さんと一緒に敷地内に入った。庭に面する窓は全て開けっ放しで、玄関だけが閉まっていた。

「すみませーん、ごめんくださーい」

直ぐに誰か出てくると思ったがそれは間違いだった。

いくら呼んでもOさんは出て来ない。本当にいないようだ。開けっ放しの軒先に置いてあった携帯電話が鳴りだした。Oさんの物か家族の物かどちらかだろう。直ぐに留守番電話になるがしばらく経つとまた鳴りだす。そして留守番電話になる。その繰り返し。

「おそらく、サラ金の督促電話ですね。Oは他社借り入れが7件あって破産寸前だからどこも払ってないんでしょ」

金坂さんがその携帯を手に持ち着信履歴を確認しながら言う。

僕「着信履歴は全部違う番号ですかね?」

「とりあえず、留守電聞いちゃいましょう」

金坂さんは当たり前のように携帯電話を手に持ち受話器耳にあてる。

「やっぱり他社の催促の電話ですね」 と言った矢先、ニヤニヤした表情に変わった。「催促以外の留守電もありますね」

僕「えっ、なんですか??」

「これ、聞いてみてくださいよ」

と金坂さんは笑いながら僕の耳に携帯を押し当てた。

『ジュンちゃんお店で待ってるよ』

明らかに日本人の発音とは異なる飲み屋のおねーちゃんらしき女性の伝言だった。因みにジュンというのはOの下の名前だ。

Oさんの近隣調査をすることにした。Oさん宅と庭続きになっている大きな古民家を訪ねた。

僕「ごめんくださーい」

「はい、なんの用かな」

庭いじりをしていたお爺さんが鎌を持って近づいてきた。

僕「Oさん宅に伺ったんですが、誰もいないみたいで」

老男「あぁ、ジュンかぁ... どっかほっつき歩いてるんだろ。夜になったら戻ると思うよ」

さらに金坂さんが続けて質問しようとするとするよりも先にそのお爺さんは話を続けた。

老男「ジュンは可哀そうなやつなんだよ…

老男「私はジュンの叔父なんだけど、あの子の両親は去年二人同時に亡くなってしまって、その後ジュンは両親の保険金がたくさん入ってきて、造園の仕事も辞めてしまって、毎日夜な夜なフィリピンクラブに入り浸るようになって、あっという間にそのお金も底をついたみたいだ。それでも働かず最近は借金取りがよく訪ねてくるようになって、 おたくらもお金貸しの人達かね? …家と土地だけは取られないようにしろよって私も言っているんだが、あの子は何を考えているのかわからないよ」

Oさん(ジュン)は41歳で独身。姉と二人兄弟なのだが、姉は嫁いで今この広い家に住んでいるのはOさんただ一人だ。開けっ放しの戸窓から見える部屋の様子は散らかり放題で特にテレビゲーム機、パチンコ攻略本などの雑誌が散乱しているのが目に付く。僕は勝手にまだ会ったことのないOのイメージを膨らませていった。きっとどうしようもないグウタラ遊び人なんだろうと...

 

 

      2023/07/10

 - 中長期回収 , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,