不良債権の横綱Tさん
金坂さん「Tごときでコンビニの食料なんて本当はもったいないですよね~」
僕「よく債務者に食べ物とか買っていくこととかあるんですか?」
金坂さん「Tだけです。面白いじゃないですか。うまい棒とかお土産に買って行ったら 笑」
前述したが、Tさんは90歳近い父親と二人暮らしをしていて、健康で働けるにも関わらず父親の年金で日々家でぐぅたらしている40歳をすぎた男だ。
僕はまだ会ったことのないTさんにその立ち寄ったコンビニで求人誌フロムAを買っていくことにした。単に健康ならば仕事を探すべきだと思ったから。金坂さんはうまい棒とパンを買っていた。
※ただ僕はTさんと会ってすぐにその求人誌に使った100円を後悔することになる。
ゴンゴン!「Tさ~ん!」
ガチャッ
扉を開けたのはTさんのおじいちゃん、いや、90歳のお父さんだった。
Tさんの父親「あわわわ、あわわわ…」
言葉になっていない言葉を聞くと同時に、まるで父親にすがるように泣きそうな表情でこちらを後ろから見つめるTさんらしき顔と体が半分視界に入る。
金坂さん「お邪魔しまーす」
Tさんが居るのを確認すると金坂さんは土足のまま板の間に上がる。
Tさん「ちょ、ちょっとぉ、靴脱いでくださいよぉ、もう~」
金坂さん「だったらこの板の間掃除してくださいよー、汚いんですもん」
Tさん「だめですよぉ、もう~」
泣きそうな顔と困った顔で甲高い声を出してわめいてくる。
金坂さん「Tさんまだ働いてないんですかー お父さんが可哀そうでしょ~」
父親に目をやると、息子が迷惑かけて(=お金を返していない)申し訳ない的な顔と、でも息子がかわいくて仕方ない的な顔が合わさった表情で微笑んでくる。きっと晩年の1人息子を溺愛しているのだろう。
奥さん、Tさんのお母さんについて今になっては気になるところだが当時は仲の良い老いた父と息子のインパクトが強すぎて情報を取ろうとは考えもしなかった。でも情報収集能力の鋭い金坂さんなら知っていたかもしれない。というか知っていただろう。そういう意味で僕はまだまだサラ金屋として未熟だった。
2023/07/10