怒涛の集金ラッシュ file2
今日の集金はバリバリ取れる。
金坂さん「Y田さん、家にいるなら電話出てくださいよー、毎日あんたのイエデン何回鳴らしてると思ってるんですか。もう電話番号も覚えちゃいましたよ。っていうか、手が勝手に動いちゃうくらいですよ」
Y田さん「はい、スミマセン」
金坂さん「はい、13,000円の受取書ね。来月はここまで来させないでくださいよ」
ってな具合にバリバリ取れる。
今日の訪問はお客さんが家に居まくりだ。15件の債権を持参して夕方迄に5件を集金。通常の債権なら当たり前か、少ないんじゃないかと思う数字だが、回っているところは全てどうしようもない不良債権だ。
印象に残ったお宅があった。海から少し内陸に入った田舎の超スラム的な住宅街に住むM川さんだ。
年は55のオヤジで独特な風貌。もちろん働いていない。電話では何度か話をしたことがあるが、会うのは初めてだった。金坂さんはしょっちゅう取り立てに来ているので顔なじみだが。
何が独特な風貌というと、
見た目イコール外見すべてが あ や し い
僕たちはM川さんのバラック小屋風建物のお宅に上がらせてもらい、玄関を上がってすぐ右手にある四畳半の畳の部屋で今支払いできる金額、今後の支払い方法について話をすることになった。
M川さんは僕たちの前にあぐらをかいて座ると早々に話し始めた。
「電話でも話しているとおり、私は病気がちでね、働けない状態なんですよ~だから無いものはないんですよ~」
漫画こち亀の両さんを少し老けさせたような顔をしたM川さんはダミ声で訴えかけてくる。
そのダミ声はおそらく酒でつぶしたんだろう。どう見ても病気がちには見えない骨太で屈強な体つきに疑念を持たざるおえない。
金坂さん「じゃあ今はどうやって生活しているんですか?」
金坂さんの債務者に対する質問はいつも明快単純だ。もちろんM川さんの回答は真実とは限らないが、金貸しとして回収処である収入源をたどっていく。
M川さん「妻のパート収入でなんとか暮らしてるんですよぉ~、大体毎月2万円の支払いなんてできるわけがないでしょうよ~」
M川さんの苛立ちが高まってきたところで間髪いれず金坂さんが叱る。
金坂さん「それはおたくの都合でしょうが!」
それに全く動じることなくM川さんは不平不満を話し続ける。
「確かにわたしの都合は都合だけどねぇ、あんた!あんたの催促の仕方はめちゃくちゃじゃないかぁ~!せっかくこの前勤めた会社にもシハライセヨなんて電報をよこしてきて、辞めさせられたのもおたくらの嫌がらせのせいなんですよぉ!あなたに説教されるような筋合いはねぇんだよ!」
確かに僕が数えるだけでも金坂さんがM川さんが前の会社在籍中に続けた執拗なまでの会社への電話や電報は50回を超えている。もちろん、M川さんは他社のサラ金も延滞しているため、会社へ督促の電話を架けていたのはうちの会社だけではないだろう。しかも、金坂さんはM川さんに支払いのプレッシャーをかけるために、回収室いる仲間が思わず笑ってしまう嫌がらせ以外の何ものでもない電話も通常の督促電話に織り交ぜる。その一例をあげてみるとこんな感じである..
トゥルルルルル、トゥルルルルル、
M川さん勤務先 「はい、〇〇工業株式会社です」
金坂さん 「ビック信用と申しますが、M川くんいる!?」※竹内力風に…
M川さん勤務先 「えっ?あのービック?のどちらさまでしょうか?」
金坂さん 「ビック信用ですがM川くんいる!?」※そもそもビック信用が存在しない会社…
M川さん勤務先 「あのー、、ですからどちらさまでしょうか?」
金坂さん 「だから、M川くんはいるの、いないの!?」※さらに野太い声で…
M川さん勤務先 「M川はおりますが、お名前を言っていただけないと替われませんので…」
金坂さん 「ビック信用のタチバナと申します」※ちなみにタチバナ(仮名)は長期支払不能者の名前
金坂さん 「で、M川くんはいるの!?」※さらに×2野太い声で…
M川さん勤務先 「M川は席を外しております」
すかさず、
金坂さん「いや~M川くんのおかげで困っとるんですわ、うちの会社。ビック信用ともうしますけどね。また改めますわ」ガチャッ
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M川さんの家の畳の上で、会社に電話をかけるサラ金が悪い、いや支払いをしないM川さんが悪いのやり取りがしばらく続いた後、回収できた金額は約定支払額にははるかにとおい1,000円だった。残り21,000円を明日までに振り込む約束をして、次の訪問先に向かった。
しかし、絶対と言っていいほどその約束は裏切られるだろう。自宅にまで押しかけて1,000円しかとれない人が明日万単位のお金を用意するはずがない。でもサラ金に勤めれば、それを十二分に承知していても無理な約束をとりつけなければならない。それがなんとも表現しにくい虚しさを感じさせる。
2023/07/10